転生したのに0レベル
〜チートがもらえなかったので、のんびり暮らします〜


210 錬金術の限界と聞きたくなかった情報



 ふう。

 わしは一通り頭を抱えた後、ルディーン君が作ったポーションが何故それほどまでに作るのが難しいのかを訊ねる事にした。

「治癒魔力は解る。わしも今までこれほどの効果があるポーションを見た事は無いからのう。だが、なぜ鑑定解析が必要なのかが解らん。錬金術で使われる解析ではダメなのか?」

「それがのう、どうやら解析では解析では一度に8つ以上の成分を指定する事ができないようなのじゃ」

 ヴァルトの話によると、肌用のポーションでも一度に10種類程の成分に魔力を注ぐ必要があるらしい。

 その上わしが今使っておる髪の毛を再生させるポーションにいたっては、何とそれに加えて後4つか5つの成分に魔力を注がねばこのポーションを作り出すことができぬと言うのだから恐れ入る。

「わしやギルマスも長年錬金術に携わっておるのだから指定さえできれば何とか魔力を注ぎ込む事はできるじゃろうとは考えておる。じゃが、現状ではその指定をする事自体ができないのでわしらではどうにもならんのじゃよ」

「まぁ、どちらにしても私も伯爵も治癒魔法が使えませんもの。例え魔力を注ぐ事ができたとしてもやはりこのポーションを作り出すのは不可能でしょうね」

 なるほど。それでは確かにこの二つのポーションを作り出すのはルディーン君以外では難しいだろう。

 だが、それならば何故検証を進めているのだろうか?

 広める事ができないのであれば、それは封印するしかないと思おうのだが。

「それはのぉ、わしらが何とかこの二つのポーションの簡易版を作れぬかと考えておるからなのじゃよ」

「簡易版だと?」

「うむ。確かにルディーン君のように必要な成分全てに魔力を注ぐのは難しい。じゃが、本当に今魔力が注がれている全ての成分がこのポーションに必要なのか? もし注ぐべき成分がもっと少なくてもすむのであれば他の者でも作る事ができる可能性が出てくるのじゃよ」

 これ程劇的な効果が出なくとも、その半分程度の効果が出るのであれば欲しがる者はあまた居ろう。

 それだけにこの二つのポーションの簡易版を作り出す意義は十分にある。

 そしてそれを行うにはまず、この二つのポーションの効果を性格に知らねばならぬと、ヴァルトはわしに語った。

「ふむ。確かに治癒魔力だけで考えるのであれば、わしの錬金術を使える神官を幾人か知って居るからのう。指定する成分を少なくできれば、その者たちに作らせることが出来るようになるやもしれん」

「そうじゃろう? じゃが、それでもまだ問題はあるがな」

「他にもあるのか?」

「実はのう、先ほど8つ以上は指定できぬと言ったが、一度にそれ程の数の成分に魔力を注げる者となるとそうは居らん。少なくとも、このイーノックカウではわしとギルマスくらいじゃろうな」

 ヴァルトが申すには作れる者が少ない特級ポーションでさえ、一度に魔力が注がれる成分は5つ程度らしい。

 そしてこの二つのポーションはその数をはるかに超える成分に魔力を注がねばならぬと言うことになるというのか。

「のう、ヴァルト。簡易版とやらは本当に作れるのか?」

「どうじゃろうのう。じゃが、作らねばいずれルディーン君が困った立場に立たされるやもしれん。じゃからわしらは、研究を進めねばならぬのじゃよ」

 このポーションの研究は、ルディーン君のためである。

 そう宣言したヴァルトの言葉に、ギルドマスターもまさにその通りと強く頷いている。

「そうか。それならばわしも協力しない訳には行かぬのう」

 こうしてわしは、引き続き髪の毛再生ポーションを使ってみた経過報告を定期的にヴァルトたちにする約束をする事となった。


「ところでラファエルよ。おぬしは先ほど、二つの用件があってここを訪れたと言っておったじゃろう? 一つはポーションの話として、もう一つはなんなのじゃ?」

「うむ。それに関してなのだが、ルディーン君にあまり変な知恵をつけるでない」

「知恵とな? はて、何の事じゃろうか?」

 ヴァルトとギルドマスターの二人は、どうやらわしの言葉を聞いても何の事か解らない様子だ。

 そこでわしは村でカールフェルト夫人に相談された内容を言って聞かせたのだが、どうやらヴァルトには思い当たる事が無いようだった。

「フロートボード? はて、確かにこの間ルディーン君はこの錬金術ギルドに顔を出したが、その時にそのような話が出た覚えはないのじゃが」

「いいえ、伯爵。確かにフロートボードと言う魔法の名は出ていません。ですがルディーン君から部屋の中で物を飛ばす魔法があるかと訊ねられた時に、私が少しだけ浮かせて物を運ぶ魔法があると言いましたわ。ですが、まさかその一言からワゴンを浮かす馬車にたどり着くとは……」

 なるほど。どうやらフロートボードの魔法にはルディーン君が自分でたどり着いたようだな。

 それならばこの二人を攻めるのは、筋違いか。

 そう思ったわしは、二人に謝罪の言葉を伝えた。

「よいよい。しかし、どうやら今回のもルディーン君の子供ゆえの発想と行動力が働いた結果のようじゃののう」

「うむ。まさか物を浮かせて運ぶ魔法があるという言葉から馬車を浮かべようなどと言う発想をするなど、普通はしないからな」

 あの魔法は広く知られて入るが、それだけに普通は大人2〜3人くらいの重さのものしか乗せられぬ事もよく知られている。

 だからこそ、馬車のワゴンを持ち上げるほどの攻撃魔力を持つ魔法使いを手元に持つ一部の者たちの間でしか、この様な事が出来る事は知られてはいなかった。

「恐るべきは子供の夢か。だがそうなると、グランリルの図書館に魔法陣の本が無いことが不幸中の幸いだ」

 ピクッ。

 ルディーン君の発想力に感心したわしが、つい口にした言葉に何故かヴァルトとギルドマスターが反応した。

「ラファエルよ。何故ここで魔法陣と言う言葉が出てくるのじゃ?」

「ああ、実はな。ルディーン君はかなりの重さの物までフロートボードで浮かせることができるようなのだ」

 そこでわしは村でルディーン君が実際に浮かべた石の、大体の重さを彼らに語って聞かせた。

「このギルドではタリスマンも扱っているようだから魔法陣は刻んだ魔道士の攻撃、又は治癒の魔力の強さによってその効力が変わる事は知っておろう?」

「うむ。じゃから、強力な魔道士が作った魔道具ほど価値が高くなるのじゃからな」

「そうだ。そしてそれと同時に、魔法陣を刻む時にどうしてもその魔力が減衰してしまう。だからこそ、今まで魔道具によってワゴンが浮かぶ馬車は誰も保有しておらん。宮仕えの魔法使いにはそれ程の使い手は居らぬからな」

 魔力の減衰量から考えて、もし皇帝陛下がお使いになられているような馬車を魔道具を使って浮かせようとした場合はかなり高レベルの魔法使いが必要だろう。

 だがそのような魔法使いは皆、ダンジョンや遺跡をめぐる冒険者だ。

 そしてそのような者たちに魔法陣を魔石に刻んで欲しいと依頼してもまず受けてはもらえぬし、例え受けてもらえたとしても莫大な報酬を支払わなければならぬだろう。

 それだけに、それ程の金を払わずとも魔法使いを雇えば同じ効果が得られるのだから、誰もそのような馬車を作ろうとはまず考えぬと言う訳だ。

「だが、ルディーン君ならどうだ? わしが見たところ、あれだけの重さの石を浮かべることができるのであれば馬車くらいはたやすかろう。それだけに、もしグランリルに魔法陣の指南書があれば彼の事だ。きっと独学で見につけて魔道馬車を創り出してしまうであろう。なにせフロートボードは魔法陣の中でも初歩の初歩、放出系の魔法陣で作る事ができるのだからな」

 そう言ってわしは笑ったのだが、どうにも二人の反応がおかしい。

 そこで一体どうしたと訊ねたのだが。

「はっ? ルディーン君に魔法陣の書き方を教え、その上放出系の魔法陣まで勉強のためにと手渡しただと?」

「うっ、うむ。じゃが、魔法文字記号の勉強はまだやっておらん。じゃから、すぐに彼がそのような馬車を作り出す事は無いはずじゃ」

「なるほど。それで一つ質問なんだが、まさかその魔法文字記号の教科書を彼に渡しては居らぬだろうな?」

 一斉に目を背けるヴァルトとギルドマスター。

 はぁ。

 そんな二人を見ながら、わしは村に帰ったらすでに魔道馬車が完成しておったなだと言う事が無いよう、聖印をかかげながら神に祈るのだった。



 さて、3話続いたお爺さん司祭様のイーノックカウ訪問ですが、今回で終了です。次回からはまた、ルディーン君が主役の話に戻ります。

 えっと、出来上がってるのが魔道馬車だったらいいですね。(爆)


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